私がUXを信用しなくなった理由

2021/02/01 08:17

Mark Hurst
ニューヨークを拠点とするコンサルタントおよびクリエイティブプラットフォームであるCreative Goodの創設者
この記事は、著者の許可を得て配信しています。
https://creativegood.com/blog/21/losing-faith-in-ux.html

私は何年もの間、UX(ユーザーエクスペリエンス)を信頼していました。ウェブサイト、アプリ、その他のデジタル製品が成功に終わるか否かの鍵を握っているのは、いわゆる「ユーザーエクスペリエンス」なのです。結局のところ、簡単で、直感的で、便利なUXが、顧客の生活をより良いものにし、同時にチームの目標である増益やサービスコストの削減を達成することができます。

1997年、私はこのUXに対する信念を胸にCreative Goodという会社をスタートさせました。そして何年もの間、この信念は正しいものでした。企業は、自社の製品を顧客にとってより良いものにすることで、物質的な利益を得ることができたのです。1997年から2007年までの10年を、オンラインUXの黄金時代(時代1)と呼ぶことにしましょう。より良いサービスを提供するために、企業が顧客の話に積極的に耳を傾けていた時代です。小売、金融、ヘルスケア、旅行、その他の部門も改善ということに夢中だったのです。

2008年、状況は一転します。金融危機が起こり、私が「滑落」と名付けた10年(時代2)が始まりました。2008年から2018年まで続いたこの時期は、UXチームの影響力が組織内で低下していた時期でした。それには様々な要因がありましたが、大きな要因としては、ウォール街からシリコンバレーへの金融化の専門家の流出がありました。突然、ビッグテック企業のシニアリーダーたちは、「一攫千金」という考え方を重視し始めたのです。それは、2008年の大暴落を引き起こした原因でもあります。当時、最も重要なのはデータとアルゴリズムであり、UXではありませんでした。UXはせいぜい、ユーザーのための表面的なSOP(Standard Operating Proceduresの略で、業務の品質を保持し均一にするために、その業務の作業や進行上の手順について詳細に記述した指示書)でしかなかったのです。

2014年、それは、ちょうど先ほど述べた「滑落」時代の真っ只中でした。私は旅行業界の大企業に私の本「Customers Included 」についての講演をしていました。そのUXチームは、この旅行大手のデジタルプレゼンスの管理を担当していましたが、プライベートQ&Aに関する話をするため、その後私を個別に呼び出しました。彼らは私の話に満足していなかったのです。確かに、彼らは言いました。「我々は研究を行うことができるし、顧客の声に耳を傾け、改善のための提言を行うんです」と。しかし、リーダーが私たちの提案を無視するだけでなく、何か違うことをするように指示してきたらどうなるでしょうか?あるUXデザイナーのコメントがいまだに忘れられません。「私たちはユーザーに嘘をついている」と、あるUXデザイナーが私に言ったのです。リーダーが定期的にUXチームに意図的に誤解を招くようなデザインを作るよう命じているというのです。どうやらそれが利益をもたらしていたようです。

私の本では「組織」について最後に書かれているのですが、「その項目では、社内政治の重要性を説明している」と、そのイライラしていたデザイナーに伝えました。しかし、そのデザイナー、そしてUXチーム全体が懐疑的であったのは正しかったのです。UXの滑落期に入り、このチームは、デジタル組織におけるUXの影響力の衰退という滑落の中を生きていました。どんな本でも、どんなチームワークショップでも、企業内の力の動きを変えることはできませんでした。UXは、せいぜい、データに裏打ちされたエンジニアリングが主導権を握っているという目に見える弊害を和らげるための役割を果たしていただけでした。

私はこの状況がこれ以上悪化するとは思っていませんでした。

数年前に時代3が始まりました。現在でも非常に力を発揮しています。「再定義」の時代です。「滑落期」の落ち込みがUXの衰退を引き起こしたとすれば、この再定義期はUXを全く新しい分野に変えてしまったのです。私は一般的な話をしていますが、「良いUX」を実践している優秀なチームはもちろん存在します。しかし、今日のテック業界の大きなトレンドは、ビッグテックの巨大企業がこれまで以上に強く推している、ユーザーとの全く新しい関わり方です。

ますます、UXは本来の意味である 「ユーザーエクスペリエンス 」を失っているように思います。むしろ、もう新しい名前を付けた方がいいのではないでしょうか。

UXは今や 「ユーザーからの搾取」です。

そのいい例が、Amazonプライムの解約手続きです。2週間前にNew York Timesに掲載された Isabella Kwai氏の記事で初めて知ったのですが、ノルウェーの消費者権利団体が、Amazonのプライム契約の解約手続きが非常に難しく、不便であるとして苦情を申し立てたというのです。以下がその苦情の原文で、その中には以下のようなものが含まれています。

解約手続きは長く、6ページで構成されています。それぞれのページでは、契約を終了するための手続きの説明のはずが、消費者はプライム会員を維持するように勧められます。. . . ページをスクロールしなければならないことになっており全く誠実ではありません。そのページには、会員資格を解約することが、お得な特典が利用できなくなるというテキストやグラフなどがたくさん載っています。

(その過程を紹介する動画もあります)

この例はあまりピンとこないかもしれませんが、インターネット関連企業でも解約手続きは面倒なことが多いのです。(2006年には、AOLが顧客の解約要求を拒否したことで全国的なニュースになりました)。しかし、これは違います。

AmazonはかつてUXオンラインのリーダーであったことを忘れてはいけません。Jeff Bezos氏は数年(これがオンラインUXの最初の10年でしょう)にもわたって、インタビューや報道記事のたびに、何かにつけて「カスタマーエクスペリエンス、カスタマーエクスペリエンス、カスタマーエクスペリエンス」と繰り返し戦略を打ち出していました。とにかくJeff Bezos 氏は何度も何度も主張していました。顧客に尽くすことに尽力したのです。そして、それが功を奏したのです。初期の段階でこの一点集中がなければ、今のAmazonは存在しなかったでしょう。

しかし今、Amazonは、Amazonプライムの解約プロセスのような、新しい種類のUXを導入しました。「購読をキャンセルします」というリンクが記載されている1ページのものであるはずが、今では「ダークパターン(ユーザーが無意識に、自身に不利な決定を下すような誘導をするUX/UIデザインの総称)」になっています。つまりユーザーを惑わせる欺瞞的なデザインのトリックと、不必要な情報で埋め尽くされた6ページにわたるものになっています。これはわざとです。むしろ、これが「時代3」のポイントです。Amazonには、高度な訓練を受けた高給取りのUX組織が存在し、ユーザーを欺き、搾取し、害を与えるために積極的に活動しているのです。UXは今、ユーザーを擁護する立場から、ユーザーから搾取することに注力する立場へと完全に反転してしまいました。利益を上げるために、UXはユーザーに害を与える存在となってしまったのです。

Amazonはユニークな存在ではありません。私はこれまでFacebookやGoogle、その他のテック業界の大企業について多くのことを書いてきました - 例えば、先月の「Calling the culprits by name (犯人を名指しする)」という記事などで今まで色々と書いてきました。しかし、AmazonがUXでリードしている点に関しては、他のテック業界は一般的にそれに追従している形を取っていると言えます。

そして、それはテックの大企業だけではありません。スタンフォード大学を中心とした教育機関が、UXのシフトに哲学的な基盤を作ったのです。私のコラム『Juul and the corruption of design thinking(Juul とデザイン思考の腐敗)』(2019年10月24日号)では、スタンフォード大学のd.schoolが推進する「デザイン思考」が、シリコンバレーが人間を搾取するための決定的な合理化を率先して行ってきたと述べています。Juulのケースでは、「共感」という詐欺的な宣言で、d.school(世界トップのイノベーション・センターであるハッソ・プラットナー・デザイン研究所)に影響を受けた製品デザインを使って、若いニコチンユーザーの世代全体を中毒にし、虜にし、収益化するという同社の真の目的のための煙幕として機能したのです。(幸いなことに、同社の星は最近勢いがなくなってきています。 Juulに関しては、私のmediadietシラバスを参照してください)

搾取にかかるコスト

UXの不浄な復活は、驚くべき代償が伴っていました。それは、Amazon Primeの解約という愚かな手間を以上のもので、私がこれまでに書いてきたBig Tech(大手テクノロジー企業)の犯罪性をはるかに超えています。結局、UXを積極的に有害なものに変えたことで、もっと助けが必要だったはずのプロジェクトから才能と専門知識が流出してしまったのです。

侮辱的な例を出します。それは、ニューヨーク市での例です。こういう記事がNew York Timesに掲載されました。「The Maddening Red Tape Facing Older People Who Want the Vaccine(ワクチンが必要な高齢者が直面している猛烈なお役所仕事)(1月14日)」というものです。そしてツイッターでは、Hee Jin Kang氏が個人的な体験を述べています。「私は両親のためにワクチンの予約をしようとずっと試みていました (両親は二人とも 65歳以上)。 集中管理されたウェブサイトがないので、そのイライラは半端ありません」 (その腹の立つ予約の手続きに関しては、Kang氏の全体のスレッドを読んでください。) 私はこう返信しました。

世界で最も大きな公衆衛生における危機的状況で、ニューヨークは、ワクチンのウェブサイトを作成することができません。ウェブ開発が始まり25年も経っている今日でさえも、電話(1950年代のテクノロジー)だけしか使えないというのは、恥ずべきことです。

私たちの社会がデジタルプラットフォーム上で運営されている今、私たちは危険な時代に向かっていますが、UXはそれらのツールを確実に使えるようにするための道を明るく照らしてくれているのではありません。最高の訓練を受けた(そして高給取りの)UXの専門家がオンラインユーザーを騙し、お金を搾取するような業務をしている間も、新型コロナウイルスで多くのニューヨーカーが亡くなっています。ワクチンを簡単に打てないからです。

ユーザーを助けたいと思っていて、有害なビジネスモデルを持っていない少数のチームのみなさん、ぜひ私に連絡してください。私Creative Goodはそういった皆さんのために存在し、皆さんを支援する準備ができています。A simple tech ethic (2020年7月23日)と拙著『Customers Included』の両方に私自身の世界観を掲載しましたが、私の意見は大多数には入っていません。ビッグテックの堕落という影響力のおかげで、UXは搾取に専念しすぎています。

その他のリンク

  • 小説家のNovelist Jonathan Lethemは今週、私の週刊ラジオ番組「Techtonic」のゲストとして登場し、彼の新刊「The Arrest」について話してくれました。この本は、画面が暗くなったときの世界を描いていますが、シリコンバレーの搾取の体現者は生きています。プレイリストを見るか、番組全体を聞く(あなたはインタビューにジャンプすることができます)か、またはポッドキャストをダウンロードしてください。
  • Techtonicといえば、上のチョウチンアンコウの画像は、Greg Harrison氏と私が作成した2019年のTechtonic Tシャツのデザインを彷彿とさせるものです。 (今はもう入手できませんが、WFMUサポーターのための新しいTechtonic Tシャツが近日中に発売される予定です ! 楽しみにしていてくださいね)。

それではまたお会いしましょう。

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